彼の親と初めてお会いした夜は、べっこう飴のような薄い三日月が輝いていた。
夕方5時半を過ぎ。私は立体駐車場にいた。
彼の親に渡すためのお酒を目で確認。
メイク崩れはしていないか、リップがあらぬ方向に飛び出ていないか。
よし、と小さく口に出して車から出る。
コンビニでお手洗いを済ませ、気持ちも少し落ち着かせてお店へと向かう。
10分前には到着し、お店の人に名前を伝え、通してもらうと私が一番乗りだった。
よかった。
しばらくして彼と、彼の家族が部屋に到着。
初めまして。私の発する言葉に震えはなかった。
彼氏の家族、という方たちに会うという経験をしたのはもう何年も前のことだった、
あの時は声も震えていたし、噛みまくっていた。そんな私はもう卒業したんだ。
なんだかほっとする。
もともとご家族にお会いすることは特に心配していなかった。
彼自身が良い人だから、おおよそ、家族もしっかりとしていて、優しい方たちだということは察していた。
お会いして、それを再確認したのだった。
彼のご家族は彼が大好きだと思う。そういったことが、会話の節々に感じられた。
どういうところが好きなの?と聞かれた時は、
真面目で、誠実なところです。と私はすぐに答えた。
ご家族も、この子は優しい子で、とエピソードを披露してくれた。
高校生のときに、彼は病に伏せたおばあちゃんのためにお守りを買ったそう。
その話は直接彼から聞いたわけではなく、ご両親は彼のお友達から聞いたという。
優しい。この人はやっぱり昔から優しい。
そしてその話をしてくれるご家族も優しい方なんだと思う。
子どもの成長エピソードが、こんな風にふわっと出てくるし、それを語る表情がなんとも穏やかであった。
(私の親からは初対面ではまずなかった…一体この違いはどこからでてくるのか?)
彼は時々親からいじられたが、そのいじりすら愛らしいものだった。
楽しい団欒であった。
愛された彼と愛する家族を見て、私は嬉しかった。
自分の求める家族像がそこにあったのだ。
そんな家族にお別れを告げて、立体駐車の入り口でよかったのに、心配だからと彼が車の前まで送ってくれた。
車に着くまで彼はずっと手を繋いでくれた。
付き合いたての時は手を繋ぐのも恥ずかしがっていたのに、今の彼は随分と私に寄り添ってくれていた。
私も変わったし、彼も変わってくれたのだ。
今の私があるのも彼のお陰で、私を変えてくれたのだ。
運転しながら、前を見ると、べっこう飴をはがしたように薄い三日月が夜を彩っていた。
この月は忘れられない月だと思う。